・改訂長谷川式簡易知能評価スケールを詳しく紹介。
・点数だけじゃない、項目ごとの障害とは?
底辺理学療法士、トリぞーです。
現在の職場は今までと全くちがう、認知症専門棟。
さっそく先輩から「ハセガワとってー」と言われました。
誰でも1度は経験がある長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)。
2年ぶりくらいにHDS-Rを行い、結果は15点。
認知症専門棟にしてはいい方かなーとか思っていたのですが、ある疑問が浮かびました。
点数だけで認知症とか判断するけど、もっと詳しく見るべきじゃないか?
・長谷川式知能評価スケール(HDS-R)の結果に影響する神経心理学的要因の検討
・知っておきたいリハビリ評価21 改訂長谷川式簡易知能評価スケール
・実地医からの認知症
・海馬、大脳辺縁系
・アルツハイマー病における言語性記憶または視覚性記憶と局所脳血流の関連
・アルツハイマー病の言語症状(失語)
・聴覚性記憶の神経機構:サルにおける後部帯状回を介した聴覚連合野-海馬体間を結ぶ神経投射の検討
改訂長谷川式簡易知能評価スケール
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)は1974年に長谷川らによって作成された検査です。
体を動かすことなく検査が行えるので、運動障害のある人でも実施可能な評価法として臨床場面で広く使用されていました。
しかし、時代に合わなくなてきた質問項目もあり、項目と採点基準等の見直しが行われ、1991年には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)となりました。
HDS-Rは記憶を中心とした、大まかな認知機能障害の有無の判定を目的とする9項目で構成された検査法。
検査時間は5〜10分、最高得点は30点、カットオフ値は21点/20点。
20点以下を認知症の疑いと判定します。
項目内容
項目内容は以下。
1. 年齢の確認
2. 日付の確認
3. 場所の確認
4. 単語再生(3単語)
5. 引き算
6. 逆唱
7. 短期記憶
8. 物品記銘
9. 語想起(野菜)
9つの項目の点数を合計して認知症の疑いがあるのか、また認知症がどれくらい進行しているのかを評価します。
合計得点だけではなく、どの項目の点数が低く、どんな障害が考えられるかを評価できた方がいいかなと。
見当識 項目1~3
見当識とは時間や場所、人物など周囲の状況を正しく認識する能力です。
見当識が障害されると「今はいつか」、「ここはどこか」、「この人は誰か」という状況を判断することが出来なくなります。
HDS-Rの1〜3の項目が見当識にあたります。
認知症では近時記憶(数分〜数日の記憶)の見当識から障害されます。
時間の見当識障害は新しいことが覚えられない、前向性健忘による近時記憶障害。
次に自分がいる場所や自宅がわからなくなる、場所の見当識障害の出現。
場所の見当識障害は近時記憶障害に加えて、視空間失認が関連しています。
人が誰か分からなくなる、人物の見当識障害は認知症がかなり進行してから生じます。
人物の見当識障害では、どの人物が分からなくなるかによって障害が異なります。
認知症発生後に出会った人物を特定できない場合には、前向性健忘による記銘力障害の可能性。
家族や友人など、昔からの知り合いが誰か分からなくなった場合には、視覚失認や聴覚失認によって顔や声を認識できなくなった可能性があります。
また、昔のことを思い出せない逆向性健忘による可能性も考えられます。
項目2が0点でも項目3が2点の場合、そこまで認知症は進行していないと言えますね。
アルツハイマー型認知症では、初期は記憶に関連する海馬が萎縮し、後期になると大脳全体が萎縮します。
すると視覚失認や聴覚失認が発症し、人物の見当識障害が見られるのかもしれません。
聴覚性記憶 項目4
HDS-R項目4は3つの単語を復唱して覚えてもらう内容で、聴覚性記憶が関係します。
聴覚性記憶は左後部帯状回の損傷などで障害されます。
聴覚は側頭葉が関係しており、側頭連合野が高次の聴覚情報処理および記憶に関わっています。
アルツハイマー型認知症にlogopenic progressive aphasia(LPA)という原発性進行性失語を呈するという報告があります。
LPAは句や文の復唱障害が主に見られます。
しかし、文法や構文に障害はでないので発語は基本的には流暢となります。
LPAは優位半球の上・中側頭葉後部から下頭頂葉小葉を中心とした萎縮、あるいは血流低下が見られます。
アルツハイマー型認知症では記憶に関わる海馬と同様、初期から側頭葉にも萎縮が見られ、頭頂葉の萎縮は中期の障害となります。
前頭側頭葉型認知症の初期の場合、記憶障害というより人格変化や行動異常が特徴となるので、初期症状ではアルツハイマー型認知症と前頭側頭葉型認知症と区別することがきます。
経験上は重度の認知症でもHDS-Rの項目4の得点率は高いです。
注意 項目5・6
項目5・6は注意、遂行機能についての内容となっています。
注意機能には以下があります。
・対象を選ぶ(選択性)
・対象への注意を持続させる(持続性)
・対象を切り替える(転導性)
・複数の対象へ注意を配分する(分配性)
注意障害が見られると上記の機能が障害され、注意を適切に向けられなくなります。
主な病巣は前頭葉の前頭連合野。
同じ前頭連合野の障害として遂行機能障害というものもあります。
遂行障害は物事を段取りよく進められなくなる障害。
遂行機能障害の根本に注意障害があります。
アルツハイマー型認知症の場合は前頭葉の萎縮は後期から。
レビー小体型認知症は後頭葉の萎縮が特徴となります。
なので認知症が初期の場合、項目5・6の得点が低いと前頭側頭葉型認知症または、脳血管性認知症の可能性が高いことになります。
何かの文献で認知機能は計算から衰えるとの記載がありましたが、経験上では重度の認知症の方でも計算能力は割と残っている印象があります。
しかし、その場合は同じ問題でも紙面上の計算は可能で、暗算はできないのかもしれません。
注意障害への対応としては集中しやすい環境を整え、興味を示す課題をじっくり時間をかけて行うことが効果的となります。
近似記憶・エピソード記憶 項目7
項目7は短期記憶の内容となっています。
記憶は保存時間と内容により、即時記憶、近時記憶、遠隔記憶の3つに分類されます。
即時記憶は数十秒程度、近時記憶は数分〜数日、遠隔記憶は数週〜数十年とされていますが、明確な定義はありません。
記憶は内容によっても分類されます。
まず記憶は大きく分けて陳述記憶と非陳述記憶となります。
非陳述記憶とは手続き記憶とも呼ばれ、言葉で他人に伝達できない記憶であり、自転車に乗る方法やダンスといった運動技術や習慣にあたります。
いわば体が覚えているというやつですね。
陳述記憶はさらにエピソード記憶と意味記憶に分けられます。
エピソード記憶は日々の生活における出来事の記憶。
意味記憶は知識に相当し、リンゴと言った時に「丸い、赤い、甘い」と連想される記憶です。
このことから、HDS-Rの項目7は近似記憶・エピソード記憶の内容となります。
生活する上で大切な記憶ですね。
陳述記憶(エピソード記憶、意味記憶)は主に側頭葉と間脳が関与すると考えられています。
エピソード記憶の障害は健忘として観察されるため、内側側頭葉や間脳、大脳辺縁系の関与が考えられています。
近似記憶、エピソード記憶はアルツハイマー型認知症では初期から障害されるため、HDS-Rの点数は低くなります。
視覚性記憶 項目8
項目8は視覚性記憶に関する内容です。
視覚性記憶は右楔前部・右帯状回の血流が関連していると言われています。
視覚性記憶は初期のアルツハイマー型認知症に見られますが、視覚に関連する後頭葉障害の特徴であるレビー小体型認知症にも見られるかもしれません。
レビー小体型認知症の場合は認知機能障害に変動が見られ、幻視も特徴となります。
語の流暢性 項目9
項目9は語の流暢性に関する内容で、前頭葉に関係します。
アルツハイマー型認知症は想起語数(HDS-Rでは野菜)が低下するとの報告があります。
言語情報処理における抑制機能が低下し、それが語流暢性課題の成績に影響します。
参考にしている書籍にはアルツハイマー型認知症の前頭葉の萎縮は後期と記載されていますが、初期から症状が出るとの論文もありました。
経験上では軽度の認知症の場合、野菜の名前はたくさん出ますが重度になってくると5個以下が多い印象です。
前頭側頭型認知症の場合は言語に関する障害は中期からで、アルツハイマー型認知症の語流暢性の大きな障害は後期かなと思われます。
まとめ
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を項目別に紹介しました。
時間の見当識は前向性健忘、場所の見当識は視空間失認の症状が加わる。
人物の見当識障害は大脳全体の萎縮がみられる。
例)アルツハイマー型認知症
初期:時間の見当識障害
中期:場所の見当識障害
後期:人物の見当識障害
側頭連合野が関係しており、聴覚情報処理や記憶が障害される。
例)アルツハイマー型認知症
初期から側頭葉の萎縮はみられるが、中期以降になって点数の低下がみられる。
前頭連合野が関係しており注意障害、遂行障害がみられる。
発症後の初期に項目5・6の点数が低いと前頭側頭葉型認知症、脳血管性認知症の可能性。
アルツハイマー型認知症は後期に前頭葉が障害される。
項目7は短期記憶の中でも近似記憶・エピソード記憶にあたる。
アルツハイマー型認知症は近似記憶から障害される。
視覚性記憶は右楔前部・右帯状回の血流が関連している。
初期のアルツハイマー型認知症にもみられるが、後頭葉に関連するレビー小体型認知症でもみられるかもしれない。
レビー小体型認知症の場合は認知機能に波があり、幻視もみられるのが特徴。
前頭葉の言語情報処理が障害されると低下する。
アルツハイマー型認知症では後期からみられ、前頭側頭葉型認知症では中期から言語に関連する障害が見られる。
HDS-Rは認知症初期にアルツハイマー型などの分類をみる目安になる印象です。
また、症状が初期なのか、後期に入っているのかも大まかに確認することができます。
しかし、複雑な脳の障害を紙切れ1枚で判断できるとは思いません。
あくまでも目安としての認識です。
点数は客観的にみれる認知症の進行状況なので、家族への説明に使うと症状に納得してもらえるかもしれませんね。