【注意機能トレーニングによる転倒予防効果の検証】の論文を底辺理学療法士が紹介します。

 転倒する原因には筋力低下がパッと思いつくかもしれませんが、認知機能の低下、その中でも注意機能の低下も要因の一つだと言われています。なので注意機能のトレーニングについて書かれてある論文を見つけたので紹介します。京都大学大学院 医学研究科という機関の論文です。

 

はじめに

 高齢者の生活の質(QOL)を阻害する大きな要因に、認知症と転倒が考えられます。転倒はリハビリテーション専門職による専門性を活かした取り組みが期待されており、これまでに各施設等で転倒予防に向けた取り組みがなされています。
 しかし65歳以上の高齢者に対して個別的な対応は限界があります。そこで介護施設などで行なわれている転倒予防教室、特定高齢者のための運動機能向上プログラムなどに効果的な転倒予防訓練を組み入れることによって、集団的に高齢者の機能を向上させることの方が現実的です。

 この京都大学大学院 医学研究科は他にも要支援から要介護2までの高齢者において、二重課題条件下での歩行能力が低下している場合には、6ヶ月以内の転倒リスクが顕著に高まることや、二重課題条件下でのパランストレーニングを実施することで、転倒リスクを軽減軽減させうることも報告しています。また、要支援までは至らない地域在住の高齢者を対象とした調査では、二重課題条件下での歩行能力は、運動機能よりも注意機能の方が強く関係していることが示唆されており1)、注意機能を向上させることによって二重課題条件下での歩行能力が向上し、転倒予防に有用となるのではと考えられています。

 転倒を回避する能力の中でも「注意機能」は重要な役割を担っているものと考えられます。「注意」は前頭葉が担う機能であり、注意機能評価として有名なtrail makling test(TMT)や仮名拾い検査などを行っている時には、前頭葉が活発に活動していることが明らかにされています。また、その前頭葉の機能向上を目的とした学習療法では、簡単な読み書き計算を繰り返し行うことで、同部位の神経可塑性が起こり、前頭葉機能の向上に至ることが報告されています。なので、注意機能トレーニングを繰り返し行うことで、注意機能が向上する可能性は高く、そのことで転倒を回避できる能力を獲得できるのではないかと考えられ、この論文は要支援に至らない高齢者の為の転倒予防訓練として、注意機能トレーニングが有用であるかを検討しています。

 

対象と方法

対象

 対象は要介護・要支援状態にない地域在住高齢者63名とされています。全例ともに日常より何も支持物のない独歩を行っており、認知症スクリーニング検査であるRDSTは7.4±2.5と報告されています。なお、認知機能の低下が顕著であり、この研究に主旨を理解出来ない方は除外されています。
 対象者はくじ引きにより、注意機能トレーニングと運動介入を行う群21名(注意運動群)、運動介入のみを行う群21名(運動群)、コントロール群21名に分けられています。コントロール群は何もトレーニングをしないグループです。

方法

 運動介入を行う注意運動群、運動群はそれぞれ同じ運動介入プログラムを実施しています。運動プログラムの内容は一般的なものであり、四肢・体幹の柔軟性の維持・向上の為の筋力訓練やボールなどを用いた敏捷性訓練を行っています。また、必要に応じてセラバンドやバランストレーニング用の道具を用いています。頻度は週に1回とし、1回の時間は適度な休息を挟みながら1時間とされています。なお、自宅で一人で行えるような単純な運動を選択し、介入日以外の日には自宅でも行ってもらうよう指導しています。

 注意運動群に対してのみ、注意機能トレーニングを実施されています。注意機能トレーニングには注意機能検査として有名なTMT-A、TMT-B、仮名拾い検査を課題として用いられています。頻度は週に1回とし、1回の時間は20分程度とされています。なお、運動介入と同様に自宅でも行えるよう、課題を配布しています。

 身体機能評価は、介入開始時と6ヶ月間の介入終了時の2回行われています。測定項目はTUG、片脚立位時間、10m歩行時間、二重課題条件下での10歩行時間とされています。その二重条件下の第2の課題には100から順次2を引くという課題を用いられており、歩行開始から終了までは計算を行い続けることを原則とされています。その際、立ち止まった場合や計算を途中で中止した場合には10分以上の間隔を空けて再測定を行っています。
 注意機能検査にはTMT-Aが用いられています。測定で用いられたTMT-Aは訓練で使用したTMT-Aと数字の配列が変更されています。

 

結果

 注意運動群と運動群、注意群とコントロール群の間に有意な差が認められました。また、TMT-Aも有意であると報告されています。さらに注意運動群のみ有意な転倒人数の減少が認められています。

 

考察

 この研究結果では、注意トレーニングと運動介入を両方行った群において、二重課題条件下の歩行能力の向上が認められています。さらに、この群でのみ有意に転倒人数が減少しています。
 注意トレーニングを行った注意運動群ではTMT-Aの回答速度が向上し、注意機能向上が示唆されています。TMT-A施工中の脳機能イメージング研究では両側の前頭葉の活動が得られてことが報告されており2)、またKawashimaらは簡便な「読み書き計算」によって前頭葉が活性化することを報告し、されに認知機能が低下した高齢者を対象に、日々のトレーニングとして用いることで前頭葉に可塑的変化が生じ認知機能、前頭葉機能が向上することを報告しています3)。
 注意機能も同様に前頭葉の機能であることが報告されており、「読み書き計算」と同様に中位トレーニング(TMT-A)を繰り返し行うことで、今回の注意運動群においても前頭葉の可塑性変化によって注意機能向上に至った可能性があります。

 要支援にも至らない比較的、運動機能の高い高齢者の場合では運動機能の低下によるものではなく、注意機能の低下を示唆するコメントが多く聞かれます。また、虚弱高齢者では姿勢反応機能の低下が著しいとの報告があります。その為、姿勢反応を強化することも、転倒予防に有用な手段であると考えられますが、加齢による影響を考慮すれと、危険を予測し得る能力を備える方が転倒予防に適しているのではないかと考えられています。
 なお、運動介入を実施した、注意運動群、運動群ともに有意な運動機能向上は認められなかった。2007年度に厚生労働省が実施した、特定高齢者を対象とした介護予防事業の効果報告では、この研究と同様に介入の効果は認められなかったとしています4)。

 

おわりに

 この研究では要支援にも至っていない方を対象としたものとなっており、普段そのような方と接することのない私にはあまり必要ない内容かなと当初は思っていました。しかし、実際の現場では要介護や要支援の区分は曖昧だったりします。なので特定高齢者と要支援も曖昧なのではないでしょうか。現場では一応計算問題を行っていますが、意味があるのかと疑問もあり、TMT-Aを勝手に加えて、今までしていた計算と変化が出るか見ていきたいと思います。底辺PTなので皆んなにばれないようにこそっと。笑

引用文献

1)山田 実:Dual-task balance trainingには転倒予防効果があるのか?-地域在住高齢
      者における検討
2)Weber P,:Attention-induced frontal brain activation measured by near-infared        spectroscopy. Pediatr Neurol, 2004, 31: 96-100.

3)Kawashima R,:Reading aloud and arithmetic calculation improve frontal function of          people with dementia. J Gerontol A Bio Sci Med Sci, 2006, 60

4)厚生労働省:介護予防サービスの定量的な効果分析について.